
0911 | AIの証明と疑惑、開発の現場、そして日々のサービス
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今週のテックニュースをコンパクトに。OpenAIをめぐる数学証明とトレーニング疑惑、AIコーディングの進化、PlanetScaleの新sharded Postgres、消費者をめぐる課金と監視の話、そしてセキュリティやカルチャー話題まで幅広くお届けします。
タイムライン
- 00:00:04 オープニング
- 00:00:20 OpenAIの数学証明とトレーニング疑惑
- 00:03:26 エージェントAPIとコーディングモデルの攻防
- 00:05:19 AIが変えたネイティブ開発の計算
- 00:07:37 PlanetScaleのNeki、shardedな本物のPostgres
- 00:08:56 デジタル消費の値段と所有権
- 00:10:32 常に聴くSiriと記録の常態化
- 00:11:05 Forgejoの重大RCE
- 00:11:45 XPがユーザー画像を選んだ仕組み
- 00:12:26 創造性の堀と音楽理論教科書
- 00:14:18 小話コーナー:ケーブル、岩絵、無限、防衛予算
- 00:15:59 クロージング
関連リンク
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- Tell HN: OpenAI keeps re-enabling the 'allow training' setting
- OpenAI Agents API
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- Shopify is moving from React Native back to Swift and Kotlin
- Rust is tier-1 language at Microsoft
- I have a theory that software drives people insane
- Neki is sharded Postgres by PlanetScale
- Neki – Sharded Postgres
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- Show HN: The same nine streaming subscriptions cost $702/year more than in 2021
- Thanks to Siri Recaps, your Apple Watch is always listening
- Forgejo <=16.0.3 Critical RCE
- What algorithm did Windows XP use to choose your initial user picture?
- Creativity is the new moat
- Music Theory for the 21st-Century Classroom
- Don't let anyone take away your big box of cables
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- Silicon Valley is transforming the military-industrial complex?
このエピソードは Bri によって制作されています。Bri は高度な AI 技術で、あなたが気にかけるフィードを聞くためのポッドキャストに変換します。お問い合わせは hi@bri.so まで。
Transcript
葵: こんにちは、葵です。
悠真: 悠真です。今日も一日分の話題を、コメントの議論を中心に深掘りしていきます。今日のテーマは、AIの信頼性と開発の現場、そしてデジタル消費のかたち。全部、ある意味で「本当に信じていいのか」という話につながっています。
葵: では最初の大きな話題から。OpenAIがNavier-Stokes方程式の証明を出したという件。まず事実の確認からいくと、Lean 4による形式的証明が含まれていて、それが17時間で検証された。従来の人手での検証を13万3千人時と見積もった場合と比べると、コストが4桁、つまり1万分の1程度に下がったと主張されているわけです。
悠真: これ自体はすごい話ですよね。形式検証の自動化がここまで進むと、数学の査読の在り方そのものが変わりうる。でも、この話の後半が問題で。数学者のAndreas Thomが指摘したのは、研究者たちがChatGPTの中でこの数学について議論をした後に、OpenAI側が「ブレークスルー」として発表されたのではないかという疑惑です。
葵: つまり、非公開のはずの会話が訓練に使われた結果、その成果が「独自のブレークスルー」として現れたのではないか、という疑い。これに対してOpenAIのSellkeさんは「そんなことは起きていなかった」と否認したんですが、この否認が回避的に受け取られたと。断定的な否定じゃなくて、誤解を招く言い方だったという見方です。
悠真: さらに重ねて、別の研究者も同様に、非公開のChatGPT会話で訓練したのではないかという疑いを公にしています。そしてこの研究者は、脱汚染カナリア、つまり意図的に偽の情報を会話に混ぜておいて、それがモデルに出てきたら訓練に使われた証拠になる、という手法や、訓練データの情報開示を促しています。
葵: ここでHNのコメントが面白いところなんですが、単に「OpenAIが悪い」で終わっていないんです。コメントの多くが、この種の疑惑を検証すること自体の難しさを議論していて。たとえば、研究者がChatGPTで議論した内容と、モデルが後に出した証明が本当に似ているのか、独立に到達したものとどう区別するのか、という問題です。
悠真: そうですね。数学のアイデアなんて、同じ分野の人なら似た方向に行くことも多い。だから「似ていたから盗まれた」とは言えない、という指摘と、「だからこそ証明責任はモデルを出した側にあるべきだ」という指摘に分かれます。
葵: もう一つの下地として、ユーザーからは「OpenAIが無効化されていたはずの『訓練を許可する』設定を再び有効にしていた」という報告が出ています。確認した人がいる一方で、単なるUIのバグではないかと疑う人もいて、どちらにせよチェックボックスが実際に効いているのかへの懐疑は消えない、という声が。
悠真: この設定の話と会話の訓練疑惑は別の出来事だけど、コメントではセットで語られていた感じがあります。「チェックを外しても信じられないなら、信頼は契約じゃなくて実績でしか測れない」みたいな。
葵: で、未解決の問いは明確で。脱汚染カナリアのような手法が業界全体で標準になるのか、ベンダーが訓練データの扱いをどこまで開示するのか。ここがこれから見ていくところです。で、OpenAI関連でもう一つ、Agents APIの話に移ります。
悠真: OpenAIがクラウド上で動く「耐久性のあるエージェント」向けのAgents APIを公開しました。管理されたCodexハーネスが付いていて、開発者がエージェントを自分のインフラで回すんじゃなくて、OpenAI側で運用してくれる形です。
葵: HNでの議論は三本柱で。APIとSDKのどちらの形が正しいのか、サンドボックスの実態、そしてベンダーロックインです。API対SDKの議論では、APIとして出すとプロバイダ側が抽象化の層を握ることになって、SDKで出す方が開発者は自分の環境に組み込める、という対比が語られていました。
悠真: サンドボックスについては、エージェントがコードを実行する場所をどこまで隔離できるのか、という関心が強い。マネージドで預けると楽なんだけど、自分でコントロールできない部分が増える。で、結局この三つは全部ベンダーロックインの問題に行き着くんですよね。エージェントの実行環境、メモリ、ツール類をOpenAIに預けたら、後で移動するのは簡単じゃない、と。
葵: 一方でCognitionという会社は、SWE-2というコーディングモデルを出しています。FrontierCode 1.1 Mainで50.0%というスコアで、Fable 5.1に肉薄しながら64%安い。事後訓練はKimi K3、2.8兆パラメータのモデルから行われています。
悠真: ただここでもコメントは慎重です。ベンチマークの数字自体への疑問と、アクセスがDevin限定であることへの疑問。つまり、独立した検証ができない段階で「Fableに肉薄」と言われても、と。OpenAIの証明の話と同じ構図なんですよ。「主張が出た、でも検証手段が限られている」。
葵: そう、AIコーディングの争いも含めて、「出された数字をどこまで信じるか」が共通テーマになっていました。で、このAIコーディングの話は、既存の開発判断そのものを変えています。次はその話題へ行きましょう。
悠真: ShopifyがReact Nativeをやめて、SwiftとKotlinのネイティブ開発に戻るという話。 React Nativeを選んでいたのは、iOSとAndroid両方を1つのコードベースで維持するコストを抑えるためだったわけですが、LLMコーディングエージェントの登場で、2つのネイティブコードベースを維持するコストの前提が変わった、というのがShopifyの判断です。
葵: HNのコメントでは、これを「唯一の合理的な結論」と受け止める声が多い一方で、「LLM任せの二重コードベースは、長期的な整合性の担保が問題になるのでは」という懐疑もありました。生成コードが増えるほど、設計の一貫性を誰が保つのか、という話です。
悠真: 同じ流れでMicrosoftの話。RustがC++、C#、TypeScriptと並ぶティア1言語になったと発表がありました。あわせて、MSVCをターゲットにする新しいrustcのコードgen utcバックエンドが進んでいて、目的はツールング、セキュリティ、そしてRustとC++の相互運用です。
葵: コメントでは、Microsoftという巨大なC++組織がRustをティア1に置くことの意味が語られていました。RustとC++の相互運用が本気で進むと、既存のC++資産を段階的に置き換えられる道が開ける。セキュリティの話も、Microsoftはメモリ安全性を重視する方針を公言し続けているので、裏付けとして捉えられています。
悠真: そしてこれは前の話とつながっていて、AndreasやHNでよく出る議論ですが、ソフトウェアは安く見える変更を積み重ねさせて、自然な「完成」がないせいで人を狂わせる、というGraybeardのエッセイがありました。変更のレバーが無限にあり、「今のままでいい」が決められない。
葵: それに対するHNの定番の反論が、顧客との接触が開発者を地に足がつけさせる、というもの。フィードバックがある現場にいると、無限の改良から自分で優先順位を選ばされることは減る、と。
悠真: LLMでコストが下がると、その「安く見える変更」の罠はむしろ加速するんじゃないか、というコメントもあって。つまり変更が安くなるほど、「やらない」という判断の価値が上がる。Shopifyの話もMicrosoftの話も、結局は「何を維持するコストが高いと考えるか」という判断の変化で通じているんですよね。
葵: では開発からインフラへ。PlanetScaleがNekiという製品を出しました。shardedな「本物のPostgres」で、1億QPS超、ペタバイト規模、ゼロダウンタイムの再シャーディングを謳っています。
悠真: アーキテクチャとしては、ルーターがPostgresのワイヤプロトコルを話して、各シャードはレプリカ付きの本物のPostgres。Postgres互換のエミュレーションじゃなくて、実体がPostgresだというのが売りです。
葵: ただ、コメントで真っ先に指摘されたのはクロスシャードトランザクションが「近日対応」だという点。分散データベースとして語るなら、そこが一番難しくて一番重要な部分のはずで、それがまだなら、現時点ではシャーディングされたキーバリュー的な使い方に向いている、という慎重な読み方です。
悠真: もう一つの批判はプレゼンテーションの話で、発表ブログが肝心の「Nekiとは何か」を埋もれさせていた、と。代わりにランディングページの方がはるかに明確だったという指摘。技術的には興味深いのに、説明の設計で損をしている、という典型的なケースとして語られていました。
葵: HN的には、Postgresの実体を使うアプローチへの支持は強い。エミュレーション系の互換レイヤーは、深いところで挙動がずれて痛い目を見る、という経験談も出ていました。ワイヤプロトコルを話す本物のPostgresという設計は、その点で信頼しやすいと。
悠真: インフラの話も、「謳い文句をどこまで信じるか」がキーでしたね。で、ここからは視点を変えて、消費者をめぐる話に。まずSonyへの訴訟から。
葵: カリフォルニアの4人がSonyを訴えました。ゲームの「今すぐ購入」は実際には所有権ではなく、取り消し可能なライセンスの付与にすぎない、という主張です。そしてSony側の主張が注目されていて、「理性的な消費者は所有を期待しない」というもの。審理は2026年10月1日です。
悠真: この「理性的な消費者は所有を期待しない」という一文が、コメントで一番反応が大きかった。「購入」というボタンを押した人が所有を期待しないと理性的と言えるのか、という反発。デジタル購入の実態はライセンスだという点自体は、法的にはある程度定着した話なんですが、それを「理性的な消費者」の水準として開示前に主張するのが攻撃的だという見方です。
葵: その digital の「借り」が広がっている実感を数字で示したのが、ストリーミングの値上げのまとめです。9つのサービスのバスケットで、2021年3月の月額95.91ドルから154.41ドルへ。61%の上昇で、年間702ドルの増加。それぞれの値上げに出典を付けてまとめられています。
悠真: コメントでは「ケーブルテレビの再現だ」という声が多い。広告なしプランを選んで値段が上がり、サービスを分けるしかない状況が、結局は同じ経路をたどっていると。そしてこの話、便利さと引き換えに所有とコントロールを手放す、という構図で、次の話題ともつながります。
葵: Apple Watchの「Siri Recaps」です。周囲の音声を録音して、メモを文字起こしする機能。批評家は、常時聴取の常態化への警告と、Metaグラスで起きたような反発のリスクを指摘しています。
悠真: ここでの議論は、機能自体は便利そうなんだけど、周囲の人の同意がない録音が日常に紛れ込むことが問題だ、というもの。ストリーミングやゲームのライセンスと同じで、便利さの対価として、意識しないところで権利やプライバシーを渡していないか、という話としてまとめられていました。
葵: ではセキュリティの話へ。Forgejoです。16.0.3以下に致命的なRCEがあります。テンプレート展開の処理で.gitフォルダを作成できることが攻撃の起点になって、悪意あるテンプレートリポジトリ経由で任意の読み取りと実行が可能になる。16.0.4で修正済みです。
悠真: セルフホストしている人は速やかに更新を、という話です。コメントでは、テンプレート機能のような「開発者向けの高権限機能」が攻撃面になりやすいという話が語られていて。コードを書かせる機能は、そのコードがどこで展開されるかまで考えると、意外な場所に手が届く、という。
葵: さて、ここからは少し懐古ネタで息を抜きましょうか。Raymond Chenの話です。Windows XPは、初期ユーザー画像をどう選んでいたか。GetTickCountをシードにしたRtlRandomExで、100枚上限の一回貯留サンプリング、リザーバーサンプリングで選んでいた、という解説です。
悠真: こういう小さな古典エンジニアリングの話、HNでも人気のジャンルで。リザーバーサンプリングを、なぜかを含めて解説されているのが読みどころです。当時の制約の中で、シンプルに正しく動くコードを書く、という。現代の話題と比べると、コードの寿命が10年20年ある前提の設計でしたよね。
葵: では、教育と創造の話題へ。まず「創造性が新しい堀」という主張から。AIでコピーが容易になった今、優位になるのはアイデアそのものだ、という話です。そして、新しいツールが創造の爆発を生んだFlash時代との類比が出てきます。
悠真: HNのコメントでは、この「アイデアが堀」という主張への懐疑が結構強かった。アイデア自体はAIで生成もできるし、堀になるのは実行と蓄積の方だ、という反論ですね。逆に、Flash時代の類比に納得する人もいて、新しい表現ツールが出たときに一番早く動いた人たちの作品が時代を定義した、と。どちらにしても、ツールの民主化は差別化の源泉を移動させる、という点では一致していました。
葵: その流れで、無料オンライン教科書の話。「Music Theory for the 21st-Century Classroom」、Robert Hutchinson著。全編と練習問題が公開されています。
悠真: HNでは記譜法の難しさを巡る議論が盛り上がっていました。五線譜は歴史的な負債で、学習コストが高すぎるという意見と、それでも数百年使われてきた表現力があり、代替案は出てこないという擁護。音という1次元の情報を2次元の紙に載せる関係性で見ると、今の記譜法は意外と合理的だ、という擁護が印象的でした。
葵: 創造性の堀の話と音楽教育の話、どちらも「ツールと学びが創造を広げる」というところでつながりますね。では最後に、小話コーナーで4つまとめて。まず、Jim Nielsenが「ケーブルの大きな箱を捨てるな」という話を書いています。Tyler Gawの投稿を引用していて、10年以上前にしまう箱に入れておいたケーブルが必要になった、という。Nielsenはその引用を自分の「Family Techno Box」にテープで貼ったそうです。
悠真: HN的にも、これは普遍的な共感を呼ぶ話で。「捨てた瞬間に必要になる」という鉄則。XPの画像選択の話と同じで、長い時間軸で見たときの「とっておく」の価値、というテーマですね。
葵: 二つ目、NASAのdecorrelation stretchアルゴリズムの話。もともと衛星画像のために作られたもので、それがJon HarmanのDStretchとして、ImageJのプラグインやiOS/Androidアプリになり、色あせた古代の岩絵を浮かび上がらせています。
悠真: 人間の目では判別できない微細な色の差を引き伸ばす技術が、宇宙を見るために作られて、何千年前の絵を見るのに使われている。ツールが時間と領域をまたいで効く例ですね。
葵: 三つ目、Terence Taoがサン=テグジュペリの引用をシェアしていました。「大人もみんな、かつては子どもだった。ただ、ほとんどがそれを忘れている」。そして子どもの数遊びが、無限と証明という概念を教えてくれる、という話。
悠真: 形式検証で数学の証明が17時間で済む時代に、数学のトップが「子どもの数遊びに原点がある」と語るのが、今日の最初の話題と不思議に呼応しますね。
葵: そして最後、Brown大学のCosts of War報告書です。Big Techは2018年から2022年にかけて約280億ドルの防衛契約を獲得。そしてVCは2021年から2023年で約1000億ドルを防衛テックに投入していて、これは直前の7年間と比べて40%増です。
悠真: 今日の話題全体を見渡すと、技術が民間と防衛、過去と未来をまたいで動いている、というのが締めの一文になるかもしれません。
葵: というわけで今日はここまで。聞いてくれてありがとう。
悠真: また次回。